山神様にお願い


「こんにちは~!」

 私は元気よく、まだ「準備中」と書かれた板の下がる山神のドアを開けた。

 途端に鼻をくすぐる龍さんがつくる出汁の匂い。

 うわ、美味しそうな匂い・・・。ぐるぐるとお腹がなりそうだった。

 パッと店の中の人たちが振り返る。

「おー、シカ坊!入社式終わったのか?」

 夕波店長が雑巾を片手に出てくる。キッチンの中ではまだタオルで頭を縛ってない龍さんが片手を上げて微笑んだ。彼の耳には相変わらずのブルーの3連ピアスが光っている。

 肩までの長髪をこの春に切って短くした龍さんは、何だか前よりも色気が増した気がする。

「お疲れ様です、龍さん」

 私は微笑んで会釈をする。

 そして店の真ん中で、メモ帳片手にこっちを見る女性、彼女がウサさんだ。

「ウサ、この子が噂のシカだよ~、虎の彼女」

 龍さんが私の視線を気にしながらニヤニヤと言う。その女性はパッと笑顔になって、タタタと近づいた。

「初めまして、冨樫です!」

「あ、鹿倉です。初めまして」

 私達は挨拶をして会釈を交わす。ウサさんは落ち着いた感じの女性だった。目元に優しい光があって、口が小さい。・・・・ううーん、確かに兎っぽい!その感想は胸の中で呟くだけにした。

「さあ、店、そろそろ開けるよ~」


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