君に、青を――

 ……この女、何で泣いてんだ?
 メソメソメソメソと……うざってェ。
 時々「お母さん」って言ってんな。

「おい」

 オレが声をかけるとビクっとこっちを見て、身体を覆っていた毛布を余計に巻きつけて……。

 ……ああ。オレが怖いのか。
 そうだな。人間は普通、オレが怖いか。

「オレはヴェステル。……お前は?」

 ……できるだけ人間が怖がらねェように言ったのに、まぁた泣き出しやがった。
 面倒くせェ。

 取り敢えずご機嫌をとらねェと……。

「……ほら」

 女にドレスを出してやる。オレの趣味の真っ赤なヤツだ。
 オレは黒が基調のかっちりした格好をして、女の手を取る。

「よく見ろ。そんなに怖い顔してねェだろ?
 名前、言えるな?」

 オレの外見は女に好かれそうなのにしておいた。できるだけ「微笑み」ってヤツに近づけてみた。
 その甲斐があったのか――

「……さ、彩月(さつき)……」

「サツキだな。よし、いい子だ。

 じゃあサツキ、説明するぞ。
 オレはお前たちが悪魔って呼んでる連中の一人だ。
 ここはオレの空間。

 オマエが気に入ったから人間の世界から攫ってきた。もう戻れねぇぞ」

 と、ここで両手で頬を包んで顔を近づける。

「大丈夫だ。オレが面倒見てやるよ。オマエは何もしなくていい。
 愛してやるよ」

 優しく言ったつもりだったんだけどな……。
 見る間にサツキは泣き出した。

 まーた、「お母さん」って言ってやがる。

 ま、懐くまで時間かかるか。
 オレは気が長いって自負してる。だから待つことにした。


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