ama-oto
interlude
 久々に思考が停止した一瞬だった。

 菜月があんな顔してるの、初めてみた。あの男の両手が顔の脇にすっと伸びてきただけで、あんな顔するなんて。

 ちょうど信号が変わったせいで、目の前に車が止まったもんだから、その先に何が起こったかは見えなかったけど、あの行動の後に来ることといえば、キスするぐらいだろう。

 いつだったかの昼飯の件の時に、もっと気づくべきだったのかもしれない。

 「キヨくん?」

 その声で、俺の思考は現実に戻った。

 「ん?」
 「信号、青だよ。急がないと。」
 「そうだね。」

 つないだ手のひらから、現実が戻ってくる。不意打ちで大学近くにゆかりが来ていたところから、ついさっきのところまで。そして、今さっき目にしたことも、気のせいでもまぼろしでもなく、現実であることを。

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