ama-oto
3
 アパートのドアを閉めると、溜息が出た。ずっとため込んだ澱を吐き出すように、深く息を吐いた。心に刺さった小さなとげが、ずっとチクチクと痛む。何もする気になれず、適当に買ってきた食料と、そんなに重たくないはずの鞄を、テーブルの近くの床にどさっとおろした。

 「それでいいのか?」

 眼鏡の奥の瞳が、私に問いかけていた。心の澱みを見抜くかのように。

何を知っててあんなことを言うのだろうか。いや、知らないからこその言葉なのだろうか。痛い姿を見ての同情か、はたまた別の意図があるのか。「待って」と言われて軽くつかまれた腕に触れてしまう。引っ張られた力は、思っていたより少し強かった。

清人とは違って、しっかりした視線だった。異性からあんなにまっすぐな視線を投げられたのは、いつぶりだろう。清人はいつもどこか頼りなげで、甘えているわけでもないのに、目を離せなくなるような、そんな視線を投げてくる。

いつだか、本人に聞いたこともあるけれども、あの視線は意図的ではないらしい。でも、いつも、いつもそうだ。清人の視線は、熱に浮かされたような気持ちになる。
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