ama-oto
 この人は、まっすぐな瞳の奥に、深い懐があるのかもしれない。まっすぐな、何かを見通しているような視線の裏にあったのは、浅はかな私には考えが及ばない優しさだったのかもしれない。

 「豊崎さん。」
 「はい。」
 「一個だけ、ワガママ聴いてくれる?」

 ドキリとしながらも、おごってもらった手前、断る理由がなかった。

 「いいけど。」

 ふにゃっと笑顔になった福間くんの両手が、私の顔の両脇に伸びてきた。

 一体、なにされるんだろう。

 そんなドキドキした気持ちを裏切るかのように、福間くんは両手で、私の両耳たぶをむにむにとさわってきた。

 「いやー、ずっと気になってたんだよね。」

 あっけに取られて何も言えないでいる私に、ふにゃふにゃの笑顔でこう答えた。

 「見事な福耳で、一回触ってみたかったんだ。」
 「……そんなに福耳かな?」
 「俺が見てきた中では、一番かわいい福耳。」
 「なにそれ。」

 またお互い、顔を見合せて、がははと笑った。
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