ほどよいあとさき


気持ちを落ち着けて考えると、夏乃さんの気持ちが理解できたような気がして、心が痛む。

心どころか体にも大きく痛みを感じる。

そんな痛みを振り切るように、何度か瞬きを繰り返したあと。

私の肩に手を置いて顔を覗き込む歩に、どうにか笑顔を向けて、そして呟いた。

「私だって、別れたあともずっと歩を諦められなかったんだから、何かのきっかけで、夏乃さんのように壊れていたのかもしれないね」

そうだ。

人を好きになって、相手のことが欲しいと思えば、その願いを成就させるためにその方法を考える。

そして、どんなに気持ちをぶつけても、努力しても、時間をかけても。

自分のものにはなりえないとわかった時。

ちゃんと諦められる強さも必要だ。

その強さを得てこそ恋愛に身を投じることができる、と感じる。

私にその強さがあったのかどうかは疑問だけど、何かのきっかけで私も歩に対して壊れた思いをぶつけて周囲に迷惑をかけるようなことをしでかしたかもしれない。

そう思うと、人を好きになるのは、怖い。

自分の想いをぶつけるだけではなく、相手の想いも真摯に受け止めて折り合いをつける強さが必要だから。


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