ほどよいあとさき
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私が椎名主任と付き合い始めたのは、私が入社して半年が過ぎた頃。
ちょうど9月末の中間決算を目前に控え、経理部はにわかに忙しくなっていた。
新入社員の私は、見る書類、与えられるデータ、全てが初めてのものばかりで、正直、戦力としては役にたっていなかった。
わからない事があれば、忙しさに顔色を変えている周囲に聞かなければ動けない、足手まといとでもいうような存在だった。
入社して初めて迎える怒涛の忙しさの中、新入社員だった私には、それは当たり前の状況で、周囲もそのことはちゃんとわかってくれていたと今ならわかるけれど、渦中にいた当時の私は、自分の不甲斐なさにがんじがらめになりながら、苦しい毎日を過ごしていた。
それでも、直属の上司である椎名主任は、私をはじめ、私と同時に配属された3人の新入社員に根気強く指示を与え育ててくれた。
残業をいとわない私に、『女の子を遅くまで働かせるのは申し訳ないんだけど』そう言いながら、何度か仕事を頼んできた。
その度、二人の自宅が近いという事もあって、椎名主任は私を家まで送ってくれ、時には食事をして帰ることもあった。
決算期を無事に終え、通常運転とでもいうべき落ち着いた業務内容に戻ったあとも、度々二人で食事をして帰っていた。
変わったことといえば、休みの前日には、椎名主任の家まで二人で行き、そのあと車でドライブに出かけることが何度かあったことくらいで、特に変化もない関係に戸惑いも感じていた。
そして、仕事を頑張る私へのご褒美だと言って、夜景の綺麗な場所に連れて行ってくれた時、初めて翌日の約束を交わした。