ほどよいあとさき


「ふふっ。遠慮しなくていいのよ。この忙しすぎる部署にのんびりとした空気を注いでくれる神田さんって、それだけで相模主任だけじゃなくてみんなの癒しになってるんだから」

「癒しって……そんな」

「こんなに大勢いるから、全員とはまだ親しくなれていないでしょ?
あとしばらくだけど、神田さんも住宅設計部の一員なんだから、この宴会をきっかけにみんなと仲良くなれば?うちの部署は将来の幹部候補がゴロゴロいるから、気になる男子がいたら後で教えて。私が裏でフォローという名のおせっかいをやいてあげる」

くすくすと笑う愛子先輩は、さ、上座へ、とばかりに私の背中を軽く押しながら、部長たちが腰を下ろしている場所へと私を連れて行った。

普段の私は、部屋の片隅で宴会の雰囲気を楽しむタイプなのに、上座へと連れていかれ一気に緊張してしまう。

「部長、神田一花さん、連れてきましたよ。私も隣にいますから、あまり飲ませない程度に彼女を楽しませて下さいね」

部長とは仲がいいのか、何の遠慮も感じさせない声で愛子先輩は部長に声をかけた。

私は部長の近くに並んで座っている次長、そして部内の各グループを取り仕切っている課長たちを目の前にして慌てて頭を下げた。

「あ、経理部の神田です。しばらく相模主任の下で勉強させてもらっています。あとしばらくの間ですがよろしくお願いします」

「ああ。初日に相模から紹介されて以来、なかなか時間が取れなくて悪かったね。今日は神田さんの歓迎会も兼ねてるから楽しみなさい。
これからしばらく、会社の中枢の仕事を勉強して、経理部に戻っても役立ててくれよ。まあ、今日はみんなと楽しんでくれ」

「あ、ありがとうございます」



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