ほどよいあとさき


私の父が、歩のお父さんが引き起こした事故に関わる弁護士だということも、歩の気持ちをさらに不安にさせる要因となっているに違いないけれど、それも運命だと思うしかない。

……とはいっても。

一生に一度しか経験できない、せっかくのプロポーズなら、もう少し甘くてとろけそうな言葉で私をおとして欲しかったなあと、残念に思ってしまった私。

それでも。

『当然だよ。私は歩から離れないし、私が歩を全力で守るから。だから安心して「娘さんをください」ってやってよ。実は、それが小さな頃からの夢なのよねー』

あまりにも軽い、あっけらかんとした私の答えが、プロポーズの返事だったということにも、しばらく経ってから気づいた。

どちらかと言えば、苦しみに満ちた波乱万丈な展開の中で恋愛してきた私達だったけれど、一年間の別れを経たあとに待っていたのは、あまりにも順調な流れ。

プロポーズとそれに対する私の返事だって、夢みていたものからはかなり遠い、ちょっとずれたものだった。

そんなずれた展開を皮切りに、いい意味であっけない流れに身を任せ、現実の重みを覆すように、軽やかにとんとん拍子。

歩がかなり気にかけていた私の両親の反応は、軽いものだとは言えなかったけれど、一生忘れられないものとなった。


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