【完】俺が消えてしまう前に


「どうして、俺・・・お前に・・・」


「うっ・・・ひっく・・・」


「おい、七海」


七海は俺を見上げてきた。

潤んだ瞳。
愛おしい七海がすぐそこにいて、しかも自分を力強く抱きしめている。




「ばかぁ・・・」


あふれ出る涙を俺は自分の人差し指で拭いてやった。

柔らかな髪をもう片方の手で優しく撫でる。



「残念ね。樹さん」


扉の奥から桃子の声がした。


「私たちに黙って消える事が出来なくて」


「・・・全部分かってたのか」


「貴方が事前に私に話してくれてよかったわ。・・・貴方がどこかへ行っている間、なんとかしてお母さんに連絡をとったの。それでお母さんに一芝居うってもらったわ」


「聖子さんに?」


「ええ、除霊するフリをしてって頼んだの」


「・・・」


「代わりに想いの強い人が樹さんに触れられるようにして、そう頼んだわ」




俺は七海を見下ろす。

未だに腕の中でわんわんと泣いている。




「これではっきり分かったでしょう?なっちゃんが貴方をどう想っているのか」


「・・・」


「私はとりあえず退散するわ。あとは二人でごゆっくり」



三日前に俺の前で泣いていた桃子とは思えないほどだった。

・・・あれも演技だったとしたら恐ろしい。
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