魅惑のハニーリップ
 さすがにこの発言にはカチンときたのか、宇田さんが再び和久井さんのほうに体を向け直した。
 なんだか……この空気はヤバい気がする。一触即発って感じだ。

「和久井、お前……俺にケンカ売ってんの?!」

「滅相もないです。そんな気はありません」

「だったらなんだ!」

「先輩が変に誤解してるからですよ」

「俺がなにを誤解してるって?!」

「遥ちゃん、先輩のせいで泣いてるから、さっき正直にそれ言えなかっただけですけど?」

「……はぁ?」

 怒りで興奮気味な宇田さんの頭の上に、一気にクエスチョンマークが並んだみたいだ。
 宇田さんは和久井さんを睨みつけながらも、顎のところに手をやり、しばし考える。

「なんで俺のせいなんだよ?」

 まだ半分キレぎみに宇田さんは和久井さんを睨みつける。

「先輩が、浅田の面倒ばっかりみてるからです」

 そこでふたりの会話が一瞬止まる。
 しばらくして、宇田さんが自分の後頭部の髪をクシャクシャと掻きまぜた。

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