ヒミツの隠れ家
第十一回


私は今までカフェで働いたことがない、全くの素人だ。

「ウチの店ではネルドリップでコーヒーを淹れてる。舌触りが滑らかでコクがでるんだ。手入れが大変だから、淹れ方と同時にそれも覚えてもらわないといけないね」
「わ、わかりました……!」

メモをとりながら深く頷く。コーヒーなんてインスタントしか淹れたことがない。料理もこれから覚えなくちゃいけないのに……本当に私にできるのかな。

あんなに前向きだった気持ちが、早くもしぼんでいく。

「焦らずゆっくりいこう。料理が作れるようになるまで、コーヒー専門店にしたっていいんだから」

私の不安を察したのか、樹さんがふわりと陽だまりのような微笑みを浮かべる。それだけで心が軽くなるから不思議だ。

そうだよね。問題はひとつひとつクリアしていけばいい。

私は前向きな気持ちを取り戻し、樹さんの説明に耳を傾けなおした。

ここを手伝うと決めてからすぐ仕事を辞め、カフェの勉強に励んだ。

樹さんが熱心に指導してくれたけど、お客様に提供できるコーヒーが淹れられるまで三ヵ月あまり。

樹さんはお父様のお店を手伝うこととなったので『Caféサプリ』はその間、臨時休業していた。



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