こっち向けよ





「はぁ…はぁ……?」



息を切らしながらも家に着き、中に入ろうとしたら鍵がかかっていた。



母さんはまだ帰ってないのか。



濡れてしまった鞄の中から鍵を出しドアを開けた。



「ただいまー……」



シン…とした家は雨のせいか、誰もいないからか、ヒンヤリと冷たい。



春は寒暖の差が激しいこともある。



日差しが温かくとも隠れてしまえばまだまだ寒い。



舞は寒くないだろうか…?



今は機会が減ったが、こっそり触れるとき、指先が冷たいことが多かった。



雨に濡れて凍えていないだろうか…?



…いや、それはないか。



あいつには時任がいる。



堂々とあの小さく華奢な体を包み込んで暖めてやることができるんだ。



つくづく嫉妬する。



…シャワー浴びよう。寒い。





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