こっち向けよ
舞ちゃんにはね──
「私には…婚約者がいるの。」
意識が記憶に潜っていた俺は舞の言葉によって浮上する。
相づちはいらない。
ポツリポツリ、雨より静かに紡がれていく言葉を受け止めればいい。
「一度も会ったことが無かったけれど、いることだけは知らされてた。」
仄かに香るシャンプーの香り。
「居なければいいとさえ、思ってた…ッ…ぅ、」
言葉は嗚咽に変わる。
温かな体温を感じているのに、舞の心の奥は凍えているみたいだ…
「……婚約者は時任くんだった。初めて会った日に呼び出されて、そう伝えられた。」