20の葛藤
貴方が助けてくれるから
私は変化を恐れていた

変わることはこわい

クラスなんて変えなくていい

どうして友達は変わるの?

どうしてお父さんもお母さんもたくさんいるの?

ねぇ、きょうだいもたくさん…

私の居場所はどこなの?



ずっとぼーっとしていたのだろう。
私は無人にすら感じられる電車の中で携帯だけを握りしめて泣いていた。

気持ちを文章にすれば楽になる。
ただ、とめどない涙は乾かない。

「外が真っ暗…今、どの辺りだろう…急いで帰らなきゃ」

一人呟く、こんなことは珍しいことではない。

最初は帰りが遅いと家族に心配されていた。それはいつの間にか消えていて、そんなものか、と思っただけだった。

本当の気持ちを全て眺めていたら、気が狂う。

諦める。
逃げる。
忘れる。

生きていくための大原則だ。



なんて後ろ向き?
いや、すれただけ、貴方がすれてないだけ、なら幸いだと笑えるだけすれていた。



擦り減った私には何もなかった。
昔持っていた物も奪われたり失ったり…全部落としてきただけだ。

落としてきただけだ。

自分に言い聞かす。



ただ一人苦しむ姿は誰に見られたっていい。むしろ見てほしい。それくらい愛情に飢えているのかもしれない。

誰か…助けてくれないかな、いや、何をしてほしいなんて持ち合わせてないんだけど………



弱い。

忘れよう。

諦めて、逃げよう。



さあ、音楽を聴こうか、ゲームをしようか、忘れよう。

そして飾った笑顔で、ただいまって帰ろうよ。



いつも、そうやってきたじゃないか…



今日はやけに聞き分けのない自分に腹が立つ…



「お嬢さん…どうして泣いているの?」

まただ…

「何かつらいことがあったの?」

やめてほしい…

「話してごらんよ…」

優しい言葉、頭を撫でる感覚、全てまやかしだ。



「君には私の声が聞こえて、姿も見えて、体温だって伝わっている。ねぇ、今日も返事は無いのかい?」



私の横に優しい微笑みで優しく言葉を並べる彼は私にしか見えていない。

なぜなら、彼の全ては私の幻覚だからだ。

私は大量の精神薬を飲んでいる。
それでもこんなにハッキリ幻覚が見えている。
体温まで感じるとはなんて重症なんだろう。

幻覚だとわかってる。

一度も相手をしないのに彼は私の傍らに現れる。

それは私の望むことだから…?

幻覚とはそんな便利なものじゃないだろう。

もしかして、幻覚ではなく死神とか悪魔だったらどうしようとか、二次元大好きで三次元に悲観的な私らしい考え方だ。

でも、さすがに最近は彼の正体が気になった。

本当に幻覚なのだろうか?

もう、いっそ死神でも悪魔でもいいから、返事をしてみようか…なんて思いはじめていた。

だって返事をしない私をみて彼はどんどん悲しそうな顔になるもんだから、罪悪感がうまれてきたのだ。



「こんばんは、いい天気ですね」

あえてすっとぼけた挨拶をした。

夜で雨なのに…
いい天気ではない。

それにあれだけ言葉を無視してきてこの挨拶はないだろう。

でも、擦り減って歪んだ私にはこれが精一杯だ。好意的な相手に意地悪しないと挨拶もろくにできない。

でも、彼は目を丸くした後、とても素敵な笑顔をくれた。

「あの日もいい天気だったもんね。」

「あの日?」

「君が私を見て一人で泣きながら帰った日も、君が私を見て現実から目を逸らすことしかできなかった日も不思議といい天気だったね。」

「ああ…そういえば、本当だ。晴れていた………貴方の最後は明け方だったから、お腹が空いて困ったの。皆が悲しむ中でお腹が空いたとなかなか言い出せなかった。」

自然と会話した。

彼が誰だか、わかった。
それが幽霊か幻覚かなんてわからないけど、その人が誰から生まれた存在かはわかった。

私の祖父だ。
私の記憶にない若い頃の祖父だ。

やっぱり、幽霊?
私を心配した?
最後まで私が泣き虫だったから…

そこまでいくと確実に幻覚だと思える。
むしろ薬の飲み過ぎだろうか………

でも、彼が祖父だとわかると嬉しかった。

夢で故人と会話することはいけないことだけど、現実に幻覚として現れた故人と会話するぶんにはかまわない気がした。



私はあえて祖父と呼ばないことにした。
誰とも聞かない。
ただ、確認したいことがいくつかあった。



「貴方の奥さんは美しい?」

「とても………」

彼はぶすっとなる。
若くても祖父は不器用のようだ。

私は知っている。
遺品の中に今日も妻が美しいなんて書かれた紙があったからだ。

「幸せだった?」

「今も………」

ぶすっとした彼は急に言葉数が少なくなった。
仕方ない。
これが彼の本来なのだ。

内孫の私に気をつかってくれるのは昔からだった。

私は知っている。

「毎日、お花にお供え、手をあわせる人がいるもんね。」

「ありがとう…」

その言葉を私以外の人に言えたならもっと幸せだっただろうけれど、そんな祖父でも私はよかった。

いまだ幽霊か幻覚かはわからずとも隣にいる祖父はいつも通り私には優しいのだから…

それに気付いたのはもう彼の体がボロボロになって天命もわずかな頃だったから、今も目元が潤みそうな話しだ。

最後に彼がここにいる理由を聞きたかった。

でも、それを聞いたら彼が消えてしまう気がした。


でも、消えてしまっても言いたいことがあった。



「おじいちゃん、もう私、大丈夫だよ。ありがとう。」

その言葉の真意としては、昔より強くなったと言いたかった。
もう、貴方が励ましてくれたから、大丈夫だよ。
そう言いたかった。

その言葉を境に涙が溢れた。

気が付けば終点のアナウンスが流れ、折り返しするためか疎らにも乗客が席に座りはじめていた。



彼はいない。



成仏してしまった?

それとも私が満足し、幻覚が消えたのか…

最後までわからなかった。

それ以来、私は不思議な力を手に入れた。

誰より不器用に、ただひたすら一生懸命生きた彼のように…
簡単には揺るがない。

不思議な力を手に私は今日も泣きながら愚痴りながら現実逃避しながら、休み休み、でもしっかり歩けるように…

なっている気がしているだけかもしれない。

だが、幽霊でも幻覚でも私にはかけがえのない経験だったのだと思う。

もう会えなくても、きっと力になってくれる人がいるのだと、信じることができるようになったから―――






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