アンコクマイマイと炎の剣士
「だからおかわり。サービスでね!」

「おおっ、もちろんじゃもちろんじゃ」

その様子に、ロゼルはわずかに顔をしかめた。

ロゼルもスリサズも魔物狩りを生業にしてはいるが、正義の味方なんてわけでは決してない。

単なるハンターだ。

アンコクマイマイを狙っているのは、その殻が、高値で売れるからに過ぎない。


遠く離れた都の酒場で、かつて国の調査官を勤めていたという、今はすっかり落ちぶれた男が語った、やまない雨の目撃談…

それを聞き、魔物の仕業を疑う者は多くとも、その魔物がアンコクマイマイだと言い当てられ、更にそのアンコクマイマイの殻が武具や魔法薬の材料として限られた市場ではあるが高い価値を持つと知る者は少ない。

その割には金のために危険な魔物に挑む者は跡を絶たないが、実際に魔物と戦って生きて帰れる者となると、ほんの一握りに過ぎない…


「あの…ロゼル様…」

宿屋の娘が震える声で問いかける。

「ロゼル様も、その…アンコクマイマイを…」

ロゼルがうなずくと、娘の目はたちまち涙で潤んでいった。

「あ、あの…あまり危険なことは…いえ、その…ご、ごめんなさいっ…わたし…」

「ちょっとー!
おかわりー!
チキンソテー!
早くー!!」

「す、すみません、スリサズ様っ」

娘は慌ててキッチンへ引っ込む。

その後ろ姿に、老人はまたカカカと笑う。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ごちそうさま!
そんじゃ行ってきますわ!」

二皿目のチキンソテーもぺろりとたいらげて…

スリサズは宿屋のドアを開け、降り注ぐ雨の中に杖の先端を突き出した。

「エイヤッ! …と…」

杖に触れた雨水が凍りつき、みるみるうちに一枚の板になって、傘の形を作り上げる。

「ロゼルー!
あんたは来ない方がいいわよ!
この雨の中じゃ、あんたの魔法は効果ないでしょ?
剣だけでどうにかなるような相手じゃないし、あたしが戻るまであんたはそこで…
そちらのお嬢さんとイチャついてなさいッ!!」

スリサズは、やけに乱暴にドアを閉めた。


(…やれやれ)

胸中でつぶやき、ロゼルもそろそろとブーツの紐を締め直す。

ハンター達の溜まり場の酒場にふらりと現れた元調査官の話を、ロゼルは右隣でビールを煽り、スリサズは左隣でミルクを飲みながら聴いていた。

(…歩く速度は俺の方が断然早いのに、同じ日に同じ宿に着いたのを、あいつは不思議に思わないのか?)
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