愛と正義と敵と【未完】
prologue



数年前__








「……なぜ、逃げなかった?」





人通りのない夜道、雨にポツポツと濡らされている中、上田 宗(ウエダ シュウ)は相手の首筋に刀を当てていた。



「跡取りといい、皆を犠牲にしてまでも私は一人で生きていく気はありません。皆が殺され、一人で生きるくらいならば、私はあなたと闘い、皆の元へと行きます。」



そう言った青年の首筋には、一本の紅い線がスっと薄く浮かび上がった。




命乞いをするわけでもなく、ただ冷静にその歳とは思えないほどの肝が据わっている目の前の青年に、宗は何とも言えない苦い感情になったのである。





「……そなた、名前は何ていう?」



「國楊 清貴(コクヨウ キヨタカ)。國楊家 嫡男でございます。」





朗らかに目を下げて微笑む青年・清貴に、宗は罪悪感を断ち切るかのように刀を振り上げた。



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