ペンときどきラブ
高校デビュー

始業


 校門の前に立ち深く深呼吸をする。隣に立っている同じ中学出身、三川凛はそわそわしながら周りを見ていた。まだ光沢のある、新品の学ランの第一ボタンを閉めて敷地内への第一歩を踏み出した。

 俺が歩き出すと、そわそわしたまま凛は後ろからついてくる。

「おい、凛。お前高校デビューするんだろ?少しはどっしり構えろよ」

 広い背中をバシバシと叩きながら、歩いて校舎へと向かう。凛の身長は187cm。そして俺との身長差は20cm。そういう面では隣に立たないでほしいと思うことは無いことも無い。顔だってそうだ、俺から見ても甘いマスクと言われるような顔をしているのに非常に内気で、全くモテない。いわゆる残念系男子ってやつだ。

「ねぇあの背の高い人かっこいい」
「どこ中出身かな?」
「気になる!同じクラスだったらいいね」

 女子、聞こえてるよ。ひそひそ話は普通の話し声と騒音指数的には大差ないって機能のテレビでやってたぞ。

「光、クラス表見に行こう。光と一緒だといいな」
「ああ、そうだな」
 
 入学式である今日、クラス発表の掲示を見てから体育館に入場してクラスごとに整列するらしい。入学式まであと三十分。確かに今のうちに行っておいたほうがよさそうだ。案内の冊子には地図が載っていて、校内の教室、主要施設、トイレ、掲示場所などが親切に書かれていた。地図に従って歩いていくと周りにはまあ初々しいというか俺たちと同じきれいな学ランを着ている生徒やさっそくスカートの丈を短くしている女子で混雑していた。

「あ、光と凛じゃん。おはよ」
「なんだ、お前この高校だったのか」
「あはは、知らなかったんだ。死ね」

冷酷な言葉とともに脛に激痛が走る。思わずおさえてうずくまってしまった。

「遙香ちゃん、久しぶりだね」
「そうだね、終業式以来だよね。クラスもう見た?」
「まだ見てないから見にきたんだ、すごく混んでるね」
「遥香さんお久しぶりです。ご機嫌はいかがでしょうか。先ほどは申し訳ありませんでした、以後慎みます」


同じ中学出身の栗生遥香に、平謝りをみせる。女子の中では一番仲が良かったこいつとは小学校の時からの付き合いで、高校が一緒であることももちろん知っていた。終業式の時には短かった髪は少し伸び、肩の辺りでウェーブがかっていた。こんな髪質じゃないのを知っているからこいつも高校デビューを狙ってるクチだな、と一人で笑ってしまう。

「何がおかしくて笑ってるの?」

あまりに素敵な笑顔に、思ったことを言うなんて無謀なことは言えるわけもなく笑いは心の中で完全に消し去った。

「いや、こうやって仲のいい三人がさっそく揃うなんておかしいなって思ってさ」
「二人が一緒にいたからよ。それよりクラス見よっか」

この学校は一学年が280人で、7クラスに分かれる。クラスが一緒になる確率は結構低いな、と思いつつクラス表までたどり着くと、案の定三人ともクラスは違った。俺は三組で凛は二組、遥香は六組だった。

「見事に離れたわね」
「ああ、俺と凛は隣だけどな」
「友達できるかな……すごく心配なんだけど」

 凛は相変わらず不安そうにしていたが安心しろ、お前には嫌われる要素がない。三人で地図を見ながら体育館に向かった。ここは地元でも有数の進学校なのだが、何分うちの中学はちょっと頭が弱い。この高校に入るのには多少厳しかった。なんて言ってる俺も実はかなりギリギリでこの二人がいなかったらまず受けようなんて発想にはならなかっただろうに。そう考えると周りの皆が頭脳明晰に見えてきてしまう。特に今俺達の後ろを歩いているやつら、もう定期テストの話をしてやがる。まだ入学式も終わってないっていうのに。これが進学校クオリティかよ。

「うわ、結構人いるね」

 校舎から体育館へは大きなステンドグラスのある廊下を抜けていくのだが、生徒がたくさんいる。同じ方向へと向かっていく百人程の生徒。波に逆らったら押しつぶされそうだ。中に入ると既にクラスごとに椅子がおかれ、自分の名簿番号の位置に座れとの指示があった。俺は30番だから、三組の30番の席へと向かう。

「凛、遥香、また後でな」
「うん、僕頑張るよ」
「またね」

 さて、席を探そう。女子が先頭、男子が後ろの四列の席だったため、三組の列の左から二番目の席に座ろうとして隣を見ると、あからさまにやばいやつがいた。髪は明るい茶髪のショートでハネている。パーマかこいつ。そして何より、イヤホンをつけてゲームをしてることに驚いた。
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