「視えるんです」
いきなりそんなことを言っても、当然理解されるはずはなく。
本田先輩の一言目は、『少し落ち着こうか』だった。
そう、すぐ忘れてしまうけど……やっぱりまずは、落ち着かなくちゃいけない。
深く深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
「……先輩、私ーー」
ーー視えるんです。
今この瞬間も、私の体を乗っ取ろうとしてる雨宮さんが、視えるんです……!!
『あぁ……視えるように、なっちゃったんだ』
「そんな落ち着き払った声で言わないでください!! 助けてくださいよ先輩……」
『そばに居るのは、雨宮?』
「そうですそうです、私の体を乗っ取ろうとしてるんです!!」
と言った時、雨宮さんが背後から正面へと回り込んできて、ニタァ……と笑った。
うわあっ!! 怖い!!
『雨宮なら、大丈夫だと思うけど』
「全然大丈夫じゃないですよぉ!! 今、ニタァ……って!! かんっぺき私を狙ってます!!」
『それは……うん、半沢ティーチャーと同じだよ。
キミが怖がるから余計怖がらせる。 普通にしてれば大丈夫。
ほら、首をへし折る勢いで』
「無理です無理です!! 触れない相手の首はやっぱりダメですっ……!!」
本田先輩の落ち着いた声を聞いていても、私はやっぱりパニックのままで。
涙をボロボロ流して電話にすがっていた。
今はもう、この電話しか頼れるものがない。
体は震え、足もガクガク言っている。
逃げられない。
さっきまで大丈夫だったのに、今は雨宮さんが、怖い……。