小さな恋のうた

二人の痛み

がちゃ……

いつの間にか自分の部屋に着いていた。
愛裕の零れ落ちそうなくらい大きく綺麗な瞳は真珠のように美しい涙で濡れていた。
ここに来るまでの間に他の使用人の誰とも会わなかったことは幸いだった。
何があったと大騒ぎになるからだ。いつも、明るく優しい愛裕は使用人達にかなり気に入られている。その愛裕が泣いてると知ったら恐ろしいことになるだろう。
今の愛裕は、いつもの明るく優しい彼女の面影が全くない。ただ頭の中が悲しみでいっぱいである。
こんな愛裕は今まで初めてだった。自分でも驚いている。
琥珀と紫苑が待っている、という事さえ忘れている。
今の愛裕は“メイド“の愛裕じゃなくて完全に“女の子“としての愛裕だった。

愛裕は机に向かって行き、ハサミを取り出した。
そして、
そのハサミで美しい黒髪を切っていった。
何かを忘れるように……
何かを断ちきろうと……
ばっさりと………髪を切っていった。
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