sound village


「ああ…歌詞とびそう…」

「フレーズ似てるもんね。」


舞台袖でオープニングの
『樹里~』と堂野先生の演奏を
眺めながら、毎度、相変わらずの
会話が続く。


「それにしても…この曲
誰が選曲したの?」

スタッフ用に張り出された
ボードの曲順をたどり、
自分が最初に唱う曲を指して
真月さんに問う。


「ん?ああ、それ、私。」

彼女は、クスクス笑う。


「えっ?!」


じゃあ、真月さんが
歌いたかったんじゃないの?!

ーーー未だ見ぬ“恋人”に
憧れる女の子のうたーーー

「レンちゃんが歌ってるところ
見たかったんだよ。」


彼女は笑う。


…最近、唱う気力も
これが歌いたいという強い思いも
ちょっと休憩気味の私に
選曲などできないことを
真月さんは気づいていたのかも
しれない。


そして、キーも曲の好みや
雰囲気が似ている私たち


「…真月さん、ありがとう。」


うまく気持ちを現せる
言葉がみつからない。


「へ?何?どうしたの?」

驚く彼女には、私が思う
他意など無いのかもしれない。

ーーーでも……

「レンちゃん?今日は一人の
女の子に戻っちゃえばいいよ。」

そういってダンナを見つめる
彼女はーーー


「…うん。そうする。」


誰よりも…仲間だ…






< 288 / 625 >

この作品をシェア

pagetop