sound village

案外ポジティブ ** side神島





「柏木さん、来るかしら?」


入念にストレッチをする俺と
斐川の様子を見ながら、
コートに繋がる遊歩道の方向に
視線をやり、カノジョが呟く。


「…どうだろうな…。」


“自己管理が行き届いていない”
一言で言えば、そうなんだろう。

だから、柏木自身、相当古傷が
痛むはずなのに、一言も文句を
言わず、黙々と日々を
過ごしているのだろう。


あと一月もすれば、日本を発つ
この時期に、爆弾を抱えた膝を
そっちのけで、どこまで必死に
走っているのかと…

無碍に言えないのは…

それほど、アイツが、
音村係長の事が好きだから…
と、いう事を承知しているから。


こうやって、またボールに触り出し
ゲームをやり出した昨今、故障は
本人が一番悔しくて、腹立たしい事は
承知している。

あれ程に計算ずくで、生きている男だ。
本人が一番、自分自身に怒り心頭なんじゃ
ないだろうか?


午後から、佐藤係長の代理で外出し
そのまま直帰予定だった柏木。
恐らく今夜は来ないだろう。


「あれ?柏木さんじゃない?」

「えっ?」


そんな俺の思考を追いやる声に
俺もカノジョの指す方向に視線を遣った。





  
< 418 / 625 >

この作品をシェア

pagetop