黄色い線の内側までお下がりください

「だから、これ以上僕たちに近付かないで」


 あざみからの返事はなくて、笑ったままその場に立ちすくんでいる。


「......具合が悪いんでしょう?」

「君のせいだよね」

「ふふふ」


 強めの風が大梯の顔を撫でて髪を揺らす。


 終電が入ってきて、大梯の目の前であざみを引き潰した。


 電車が過ぎ去るとそこにもうあざみの姿はない。


 さっきまであざみがいた場所には大粒の雨が降り注ぎ、枕木の間の小石に弾けて小さい粒となって飛び散った。



 大梯は背中を椅子に預け、ふーっと鼻から空気を吐いた。


 右手で心臓らへんを抑え、肩で息をした。


 怖いのは富多子だけじゃない。大梯だって同じように怖い。


 霊と話をするものほど怖いものはない。


 冷凍庫の中に入れられているような気分になる。



 温かいものが飲みたいと思った。





 体の芯から温まれるような何かを胃袋の中に入れたいと思った。





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