黄色い線の内側までお下がりください

 時計を見ると、4時08分。

 いつもこの時間にこうなる。

 目を閉じてエアコンの風を感じ、時間が過ぎ去るのを待つしかない。それ以外に方法はないから。

 コトリと音を立てて何かが倒れた音がして飛び起き、音の主を目で捜し、びくりと跳ねた心臓を抑えた。

 テレビの後ろに何かが落ちたらしい。

 恐る恐るベッドから出てテレビを横に少しずらすと、

 赤いハート形の小物入れが一つ、蓋が半分開いた状態で見つかった。



「これってあのときのやつ...だよね」

 手に取り、中身を見て昔のことがスライドショーのように頭に入ってきた。

 体から力が脱力した。

「......これだ。これのことだったんだ」

 蓋をしっかり閉じると両手でぎゅっと潰すが、びくともしない。


「そんなに返してほしけりゃ返しに行ってやるわよ」


 腹立たしさと気持ち悪さが体中を覆う。

 音を立ててテーブルの上にその小物入れを叩きつけ、睨みつけた。



 赤い皮でできている小物入れには埃が白い被っていた。
                                                                                                                                 
 
< 64 / 163 >

この作品をシェア

pagetop