「約束」涙の君を【完】




遅刻ぎりぎりで、教室に入った。


自分の席に着くと、「おはよ、優衣」って、



あおいが振り向いた。




「お……おはよ、あおい」





あおいは、口をぽかんと開けて固まった。



「優衣、声……」




私は頷いた。






「よかった…よかったじゃん!」


自分の事のように喜んでくれたから、




私は泣きそうになってしまった。



「優衣、いっぱい話そうね。


後で杏にも言わなくちゃ。


びびらせよ!」





私が頷くと、先生が教室に入ってきた。





起立をして挨拶をし終わった時、




私は、思い切って、




手を挙げた。






「どうした、水沢」




私は立ち上がった。





「あ……あの……」



緊張して、言葉が詰まるし、声が震える……



「水沢……声出るようになったか」


先生は、驚いていた。





「声が……出るようになったので、





もう一度、転入の挨拶を……




させてください」




「わかった」




先生は優しく微笑んでくれた。


私は一度深呼吸して、


胸を抑えた。



ちゃんと言わなくちゃ……私の気持ちを。



「私は……



私の名前は、水沢…優衣です。





私は……




私は……」





緊張し過ぎて、下を向いた。




「優衣、ゆっくりで大丈夫だよ」



隣から祥太の声がして、


横を向くと、祥太と目が合って、



祥太は、ゆっくりと頷いた。





私も頷くと、顔を上げた。




「私は……



東京からきた子じゃなくて、



犯罪者の娘じゃなくて、




私は、


私は……



水沢優衣です。





この土地に逃げてきたんじゃなくて、



この高校で、やり直しにきたんじゃなくて、




私は……ここで暮らしたくて、



私はこの高校で、


普通の高校生活を送りたくて……



家族のしたことを思えば、


無理なのかもしれないけど、



もう、下を向いて生きていくのは嫌だ……




ちゃんと、私は私として、


上を向いて生きていきたい……


そう….…思っています。



よろしくお願いします」





< 157 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop