「約束」涙の君を【完】
遅刻ぎりぎりで、教室に入った。
自分の席に着くと、「おはよ、優衣」って、
あおいが振り向いた。
「お……おはよ、あおい」
あおいは、口をぽかんと開けて固まった。
「優衣、声……」
私は頷いた。
「よかった…よかったじゃん!」
自分の事のように喜んでくれたから、
私は泣きそうになってしまった。
「優衣、いっぱい話そうね。
後で杏にも言わなくちゃ。
びびらせよ!」
私が頷くと、先生が教室に入ってきた。
起立をして挨拶をし終わった時、
私は、思い切って、
手を挙げた。
「どうした、水沢」
私は立ち上がった。
「あ……あの……」
緊張して、言葉が詰まるし、声が震える……
「水沢……声出るようになったか」
先生は、驚いていた。
「声が……出るようになったので、
もう一度、転入の挨拶を……
させてください」
「わかった」
先生は優しく微笑んでくれた。
私は一度深呼吸して、
胸を抑えた。
ちゃんと言わなくちゃ……私の気持ちを。
「私は……
私の名前は、水沢…優衣です。
私は……
私は……」
緊張し過ぎて、下を向いた。
「優衣、ゆっくりで大丈夫だよ」
隣から祥太の声がして、
横を向くと、祥太と目が合って、
祥太は、ゆっくりと頷いた。
私も頷くと、顔を上げた。
「私は……
東京からきた子じゃなくて、
犯罪者の娘じゃなくて、
私は、
私は……
水沢優衣です。
この土地に逃げてきたんじゃなくて、
この高校で、やり直しにきたんじゃなくて、
私は……ここで暮らしたくて、
私はこの高校で、
普通の高校生活を送りたくて……
家族のしたことを思えば、
無理なのかもしれないけど、
もう、下を向いて生きていくのは嫌だ……
ちゃんと、私は私として、
上を向いて生きていきたい……
そう….…思っています。
よろしくお願いします」