恋はストロングスタイル


「おい、由美!いきなり何すんだ?」
「ふふふ、お兄ちゃん、相変わらず女の子の前だと油断しちゃうんだから」
おれの腹の上に乗った由美は、顔を赤くしながらおれの胸に頬擦りした。
くすぐったかった。
「ふざけんなよ由美。おい、どけって」
「あ、お兄ちゃん、ドキドキしてる……」
「おまえなあいい加減に……」


「わたしは嫌だよ!!」


急に由美が叫んだ。大声が、道場に反響した。


「わたしはずっとお兄ちゃんの背中を追いかけてきたんだから!お兄ちゃんにふさわしい女の子になりたくて、辛い空手の修行にも耐えてきたんだから!それを……別の女に奪われるなんて、絶対に認めない!」
「いや、だから南斗さんとはそういうのじゃないって言ってんだろ?」
「それでも嫌なの!お兄ちゃんが他の女と長時間一緒にいるなんて許せないの!」
「由美……」
由美は顔を寄せると、おれの耳元に囁いた。


「ねえ、お兄ちゃん。いま、道場にはわたし達二人しかいないんだよ……」


熱い息が、耳にかかった。
夕日に照らされた由美の瞳は、うるんでいた。
つうっと指で、おれの胸元をゆっくりと撫でながら、由美は濡れた声でつぶやいた。


「ここで……しちゃおっか?」


おれは眉間にしわをよせると、静かに言った。
「由美、本気で怒るぞ」
由美の表情が崩れそうになった。歯を食いしばって、何かに耐えるかのようにしばらくうつむいたあと、由美はため息をついて、おれの上から離れた。立ち上がり、伸びをする。
「あーあ、またふられちゃった。これで何回目かな?」
おれも立ち上がった。
「・・・・・・悪い。でも、やっぱりおまえのことをそういう風には見れねえんだ」
「……わたしって、そんなに魅力ないかなあ?」
「そういうわけじゃねえけどよ」
「でも、わたし、あきらめないからね。じゃっ」
そう言い残して、由美は走り出した。


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