日々是淡々と‥
当時の営業部は歩合制で、
中途採用された30代から
50代のユニークな
営業マンが20人ほどいた。

 博打好きで借金を重ね
ついには学校を追われた
元高校の数学教師や、
やくざ風の元バーテンダー、
がっしりした体格で強面の
体育会系元ガードマンに
30歳前なのにタバコと
お酒のせいですっかり
ガラガラ声の元スナックの
チーママ。

驚いたのが、元暴走族だった
という男性社員だ。

そんな怖い面影などまるで
感じられないくらい華奢で
色白の優しい顔立ちをした彼は、
由香里より年下なのにすでに
二人の子供のパパだった。

おまけに世の中はバブル全盛期。
契約に行った先々では、
価格表を見ただけで
『これとこれもちょうだい。』と、
現場も見ずに不動産を買う客や、
いきなり現金数千万円を
自宅の冷蔵庫から持ち出して
くる客や、愛人に買うから
妻には内緒だといいながら、

『気学の先生に言われたから
契約は自宅で行う』と
いう訳のわからない条件を
出してくる客など、
由香里には全てが
『未知との遭遇』だった。

また、その頃の由香里は、
自分の殻を打ち破りたい
一心だったので、彼らの
言動に驚かされながらも
興味津々で、怒鳴られても
バカにされても、機会が
ある度に後ろをくっついて
回っていた。

また、最初はそんなお嬢様の
由香里をただ面白がっている
だけだった営業マン達も、
体当たりで立ち向かってくる
由香里を見ているうちに、
色々と面倒をみてくれる
ようになった。

やがて会社が順調に成長し、
少しずつ会社らしい組織改革を
行うようになると、一匹狼の
彼らはあっという間に会社を
去ってしまい、バブル崩壊後には
全く連絡が取れなくなってしまった。

由香里は短い期間だったが、
そんな一風変わった連中に
揉まれて『家族』とは絶対に
共有できない色々な経験や
仕事に満足していた。

 由香里にとっては貴重な
財産であり、今の自分を
育ててくれたという、
それなりの自負をもっていた。

 そんな自分があんな小娘に
単純に振り回されていることが、
なぜか無性に悔しくて
たまらなくなるのである。
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