意地悪な彼が指輪をくれる理由



8月になり、夏本番。

湿気大国ニッポンの夜は蒸し暑い。

私と瑛士は横浜某所にある、洋館作りのレストランバーにやって来た。

無論、披露宴の二次会のためである。

「あちー。ビールビール」

会社帰りでクールビズスタイルのままの瑛士は、冷たいおしぼりを首の後ろにあてて唸った。

「おっさんみたい」

「みたいじゃねーよ。おっさんだよ、もう」

そう言って笑う瑛士に密かにときめきつつ、口ではいつものようにネタが飛び出してゆく。

「私まだ女の子だから、今日は違うの飲もうかな。カシオレとかファジーネーブルとか」

「何だよ急に。今さら可愛い子ぶんなよ」

「ぶってないし。可愛いし」

わかってないな。

私だって、ちょっとはあんたに可愛く見られたいんだよ。

そんな乙女心を無視して、瑛士はイケメンの店員に声をかけた。

「すんませーん。ビールふたつ」

「はぁ? カシオレは?」

「無理すんなって。ビール好きだろ?」

眩しい笑顔が私の心を鷲掴み。

「……好き」

でも、あんたの方がもっと好き。

危うく言いそうになってしまった。

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