意地悪な彼が指輪をくれる理由
唖然とする瑛士の顔を見ながら、私は閉ボタンを押した。
扉が閉まる瞬間、彼の顔を見ながらニヤリと笑みを見せておく。
程なくして、エレベーターは静かに下階へと向かい始めた。
「ふー……」
深く深く、息を吐く。
反省の意味を込めて。
売り言葉に買い言葉を繰り返してしまう、私たちの悪い癖。
それはイコール、13年経過しても劣化しなかった、ある種の絆でもある。
その絆を、私は信じてみることにした。
2階に到着。
相変わらずふかふかの絨毯は足に優しく、音も立てない。
外へ通じる自動扉が開いた瞬間、街の喧噪に取り込まれる。
靴の音も鳴る。
しばらく歩いて、建物を見上げてみた。
さっきまで一体どの部屋にいたのかはわからない。
今頃瑛士と先輩はどうしているのだろう。
「さむっ」
夜になると冷えるようになってきた。
風邪を引く前に家へ帰ろう。
私は再び靴を鳴らし、さっき25階から見た夜景に溶け込んだ。