意地悪な彼が指輪をくれる理由

「あなたたち、今日もその話してるの? 私、もう聞き飽きちゃった」

ライバルショップ、ビジュ・プレリュードの笹塚店長だ。

我らがジュエルアリュール店長の祐子さんは、緩んでいた顔をキュッと締める。

「あ〜ら笹塚店長。聞き耳立てないでくれる? 盗み聞きなんて悪趣味よ」

「聞こえてきちゃうんだから仕方ないでしょう? 聞かれたくないのなら、聞こえない声で話してくれるかしら。品がないわよ」

やれやれ、本日も店長同士のお戯れが始まった。

私は二人のしょうもない論争を聞きながら、かつていずみと碧はこんな気持ちで私と瑛士を見ていたのかもしれないと反省した。

このジュエルアリュール横浜店には、もう一人販売員がいる。

今年の4月に入ってきた、野田(のだ)ももこ。

3月に高校を卒業したばかりの若い女の子で、私と同じくフリーターだ。

生意気ドSマネージャーこと木元がやってきたのは、私とももこの交代時間の少し前だった。

「お疲れさまです」

いつもと同じパリッとした顔の彼に対し、

「お疲れさまで〜す」

と笑みを浮かべる私たち。

まるで幼い子が「ほめてほめて」と言っているかのように、期待に満ちた顔をしていたかもしれない。

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