四竜帝の大陸【赤の大陸編】
出窓に置かれた鉢には松によく似た葉を持つオレンジ色の花が咲き、風に揺れている。
あ……窓が全開でも、寒くない。 
気温の低い青の竜帝さんの帝都と違って、ここは温暖な気候みたい……そ、そろそろ赤の竜帝さんに、話しかけてもいいかな? 
これからしばらくお世話になるんだから、ご挨拶を……それに、ダルフェさんやカイユさんの事も……それにそれに、私を転移した第二皇女様の事も気になるっ……ああ、でも皇女様の事は、ハクに訊くべき?

「……ぁ、あのっ」

浴室に来てから笑みを絶やさぬ彼女だけれど、なんというか有無を言わせぬ迫力があり、声をかけ難かったから……よし、とりあえずご挨拶だけでもっ!
竜族用のサイズのバスタブは大きいうえに深いので、私は中央に膝立ちして淵に両手をかけ、赤い瞳を見上げた。

「あ、あのっ! 赤の竜帝さ……ッ!?」

聞きたいことがいっぱいあったので、意を決して口を開いた私だったけれど。
彼女の指先が、唇に触れてそれを止めた。

「駄目」

 “しーっ”っと、艶やかな唇から吐息が……私、喋っちゃ駄目なの?

「トリィさん、私だって貴女とたくさんお話したいわ。伝えたいこと、教えてあげたいこと、お話したいことも、聞きたいこともたくさんあるの」

その指先は唇から頬へと流れ。
耳を越え、髪を梳く。

「でもね、それはまた後でね? やっと貴女を取り返したのに私とばかり貴女がたくさんお喋りしたら、聴覚を上げて会話を聞きながら、檻の中の熊みたいに扉の向こうでうろうろしているヴェルヴァイドのこの辺の血管が悋気でぶっちんって切れちゃうもの」

ふふふ、愉しげに笑う彼女の言葉に。
私の脳内で、もこもこの熊さん風な耳を頭部に装着したハクが浮かんだ。
熊のもこもこ耳……白熊のもこもこ……あ、人型で想像しちゃったけど……うん、これはこれで可愛くて似合うかもしれない。



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