四竜帝の大陸【赤の大陸編】
第三十五話
  我は。
 りこを得て。
 以前より。
 よく喋るようになったと、ダルフェに度々言われるようになっていたが。

「……ダルフェよ。お前に教えてやろう」

 よく喋るようになった、という自覚が。
 自分でも、ちゃんとあるのだ。

「…………旦那?」

 我は。
 りこに会い、言葉を交わし。

「お前は」

 想いを。
 声で。
 言葉で。
 耳に、脳に。
 音として与えられると。
 心に、何かが触れるのだと知った。 

「最初で」

 まぁ。
 我の場合。
 そのように感じられるのは、我にとって唯一無二の存在であるりこ限定なのだが。
 それを“知った”我は。
 使いようによっては、それが。

「最後の」

 まるで、狩人の矢のように。
 獲物をこの手の中へと落とすのだと、知った。 
 ゆえに。
 我はこの口から。
 言葉を、音にして放ち。

「我の竜騎士、だ」

 “必要なモノ”を。
 手に入れるのだ。 

「…………………ほんと、あんたって性質たちが悪い人だねぇ……」

 ダルフェは。
 数十秒の間の後に、そう言った。

「……ダルフェよ」

 その顔が。
 吐き捨てるような口調とは逆に。
 とても、とても満足気だったので。
 それを見て、我は思った。

「なるほど。これがドMということか?」
「はぁああああっ!? 俺のドMはハニー限定ですっ!!」

 我の竜騎士であるということは、『贄』のようなものなのだぞ?
 なのに。
 お前は。
 残された短い時間を。
 この我に、喰らわれるのを是とするのか?

「ダルフェ」

 ダルフェ。
 赤い髪の、<色持ち>の竜よ。
 我は、長く、永い間。
 多くの竜ものを見てきたが。
 “惜しい”と。
 そう、感じた竜ものは。
 お前、だ。
 我から見れば。
 お前は、数日で咲いて散る花と大差無く、とても儚い……。

「ったく。はいはい、なんですかぁ?」

 ダルフェよ。
 ここで、今。
 この瞬間に。
 失うことを定められているお前を、惜しむこの気持ちは。
 確かに、我自身のものだ。
 そして。
 失うのは惜しいが、<色持ち>であれうお前をお前のままで留めておく術すべはこの世には無いのだと、我は知っている。
 お前でなくなったお前など、我には価値が無いのだ。
 だから、お前は寿命のままに死ね。
 我はお前の死を望む。
 お前が、お前のままで死ねば。
 我は。
 ずっと、ずっと。
 お前という存在を。
 惜しむことが、できるだろう……。

「……我は知らぬので訊くが。ベルトジェンガの息子は何時何処で、何故死んだのだ?」
「え? 黒の爺さんの? なんだって、急にそんなことを?」

 ダルフェ。
 お前は、我の竜騎士。
 優秀な、猟犬。
 さあ。
 辿れ。
 その鼻で、嗅ぎ分けるのだ。

「……我はそれを知る必要性があるから訊いたのだが?」
「必要性がある? 必要……今、この時に………………まさか……あんたは……黒の爺さんの息子の死に導師が関係してるって言いたいんですかっ!? 旦那は導師を介して、何を視て知ったんですか!?」
「視たものは。我の得たモノは、粉々に砕けた破片の一部にすぎぬ。原型を知らねば、組み立てようがないほど細かいのだ」
「原型……」
「ダルフェよ」

 その脚で仄暗い森を駆け、その翼で雷鳴の空を飛び。
 潜む獲物を、我の下へ。

「我がお前に望むものは、推測ではなく事実だ」

 お前の飼い主(あるじ)の元へ。
 持って来い。









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