四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「何が不釣り合い、なのだ?」

 首を傾げて訊く貴方。
 何でも答えたくなっちゃうような、私の好きな可愛い仕種。

「え? あ、あのっ」

 でも、言えません!
 さすがにハクちゃんには、言えない。
 ハクちゃんと不釣り合いな私だから、黄の竜帝さんに嫌われてる気がするなんてとても言えないです!

「あ、えっと……うん、ダ、ダンス? ほら、私とハクちゃんの身長が釣り合ってなから、花祭りのダンスの練習の時にちょっと大変だったことを思い出してたの! 舞踏会のことを聞いたからっ」
「なるほど。だが、我とりこは踊れるようになった。つまり、我とりこは不釣り合いではないということだ」

 真珠色の爪に飾られた指先で、私の鼻の頭をすりすりしながらハクちゃんは言った。

「ハクちゃん……うん、そうよね! ありがとう! ……えっと、何で鼻を触っているの?」
「りこのここは、感触が良いのだ。なんというか……”可愛い”感触なのだ」
「え?」
「何時間でも触っていたくなるような愛らしい感触で、いつもりこが眠っている時に触らせてもらっていたのだ。……我のりこは、どこもかしこも可愛らしい」

 撫でていた鼻先から指を離すと、ハクちゃんは撫でていたそこにキスをしてくれた。

「え? 寝ている時にしてたの!? き、気がつかなかった……」

 ハクちゃんって、この魔王様系な外見からは想像できないけれどキス魔よね……。
 そういえば、キスって場所によって意味があるって学生時代に聞いたことがあったけれど……鼻へのキスって、何を表してたかしら? 
 う~ん、思い出せなっ……。

「姫さん、お待たせ! さて、腹ごなしも兼ねて街を散策しようぜ!」

 鼻へのキスの意味を思い出す前に、片付けを終えて身支度を調えたダルフェさん達が厨房から戻ってきた。エプロンを外したダルフェさんは、赤の竜騎士の制服に黒い太刀……鞘も柄も漆黒で、鍔だけが煌びやかで……ハクちゃんが教えてくれたけれど、金銀象嵌というらしく……。

「ダルフェ、お片付けありがとうございました……ジリ君、寝ちゃったんですか?」

 落ち着いた色の青の竜騎士姿も格好良かったけれど、派手な赤の竜騎士姿も見惚れるほど格好良いダルフェさんの腕の中で、安心しきったお顔でジリ君がぐっすり眠っていた。

「うん、ジリは腹がいっぱいになったから寝ちまった。まぁ、いつも昼寝している時間だからな」
「ダルフェ、私がジリギエを抱いていくわ」

 侍女服から青の竜騎士の制服に着替えたカイユさんが、白い手袋をしながらダルフェさんにそう声を掛けると。

「カイユちゃん、ジリ君は僕が預かるよ。ふふっ、ダッ君のをとっておいて良かった♪」

 ニコニコ顔のエルゲリストさんが現れた。
 手に持っているのは、ひよこさん柄の……あれって、もしかしておんぶひも!?

「ですが、義理父様おとうさまもお忙しいでしょうし……」
「ううん、暇なんだよ。今日はこのお重を陛下に届けたら、することが無いんだ。明日はひよこ亭の定休日だから仕込みもないしね。それに、僕がジリ君と過ごしたんだ……少しでも長く、ね。我が儘言ってゴメンね、カイユちゃん」
「義理父様おとうさま……」
「カイユ。ジリは父さんに任せよう? 父さん、ジリを頼むよ」
「任せて、ダッ君! 僕のほうがダッ君よりパパ歴が長い先輩なんだから! ジリ君、じいじがおんぶしてあげるからね~」

 エルゲリストさんはダルフェさんから深く眠ってしまったジリ君を受け取ると、手慣れた様子でおんぶひもを使って彼をおぶった。

「……すげぇな、俺に使ったのをとっておいたなんて……なんつーか、ちょっと感動しちまった」

 孫をおんぶして嬉しそうに微笑むエルゲリストさんを、ダルフェさんが緑の眼を細めながら感慨深げに見つめた。

「僕のダッ君コレクション、まだいっぱいあるよ! ダッ君がお気に入りだったひよこ柄のおパンツもとってあるんだから!」

 ウィンクをして、エルゲリストさんが得意気に応えた。
 ひよこ柄のおパンツですか!?

「げっ!? それは捨ててくれよっ!」

 瞬時に顔を引きつらせたダルフェさんに追い打ちを掛けるように、エルゲリストさんがさらに言った。

「ダッ君がお婿に行くまでず~っと一緒に寝てた"くまたん”のぬいぐるみも、もちろんとってあるよ! あ、使うなら返すけど?」

 "くまたん”っ!?
 ダルフェさん、お婿に行くまで"くまたん”と寝てたの!?

「使わねぇよっ! 父さん、変な言い方すんなよ! 餓鬼の時に父さんが旅行先で買ってくれたから、大事にしてただけだろうが! ったく、勘弁してくれよ~」

 あ。
 ダルフェさんったら、赤くなってる!
 ……ふふ、ダルフェさんのウィンクって、お父さん譲りなかしら? 

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