四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「トリィ様。赤の竜族が道を空けたのは、ヴェルヴァイド様が蜜月期の雄竜であると理解しているからですわ。お気になさらず」
「カイユ……」

 蜜月期の雄竜は、つがいに異性が近寄るのを許さない。
 本来なら二人っきりで過ごす蜜月期なのに、ハクちゃんが人間の私に合わせて我慢してくれているから、こうしてお出かけもできている……でも、近づきすぎたらさすがに危ない。
 だから竜族の皆さんは距離をとってくれてると、カイユさんはそう言ってくれてたわけだけど……青の竜族の皆さんの数倍以上、赤の竜族の皆さんは離れてるんですが……。
 遠巻きに私達を見ている赤の竜族の人達の表情は、怖がっているとか警戒しているといったものではないことは私にも分かった。
 <監視者>であるハクちゃんへの恐怖心は、そこにはない。
 彼等からは感じるのは、興味や親しみ……そして、戸惑い?
 話しかけたいけれど、そうして良いかどうか判断しかねて困ってるような……。

「姫さん。旦那の拠点はこの数百年、黄の大陸と青の大陸だったから赤の竜族の中には"ヴェルヴァイド様初体験”って奴も多い。旦那に慣れてる青の竜族と違って、距離を測りかねてるんだ。……旦那、もうちょっと近づいても大丈夫ですよね?」

 先頭にいたダルフェさんが振り返り、ハクちゃんに訊いた。
 ダルフェさん、いつもより大きい声だった……もしかして、赤の竜族の皆さんに聞こえるように?

「……大丈夫、だ。りこが手を繋いでくれるならば、だが」
「つ、繋ぎますともっ!」

 私は急いでハクちゃんの手を握った。
 その途端。

「ヴェルヴァイド様、ご結婚おめでとうございます!」
「赤の帝都へようこそ、ヴェルヴァイド様!」
「奥方様! ようこそ赤の帝都へ!」
「団長、お帰りなさい!」
「貴女がカイユさん!? まぁまぁ、なんて綺麗な竜騎士なのかしら!」
「青の陛下をふって、団長を選んでくれた青の竜騎士団の団長さんでしょう!?」
「お子さんは今日はお留守番なの!?」
「奥方様、異界人ってこっちの人間と変わらないんですね!?」
「団長がつがいに出会えて良かった!」
「わぁ~! 奥方様の眼、綺麗! ヴェルヴァイド様と同じなんですね!」
「陛下とエルゲリストさん、ダルフェ団長がずっと独り身だって心配してたものね!」
「いや~、本当に美しい奥さんだね! 青の竜騎士団の団長をつがいにするなんて、さすが団長!」

 私達の周りを囲むように竜族の皆さんが押し寄せ、いっせいにお祝いや歓迎の言葉を……数十人が一気に話しかけてきたので、私は思わずハクちゃんの腕にしがみついた。
 ハクちゃんと私へのものだけじゃなく、ダルフェさんやカイユさんへの言葉も混じって入り乱れ、あっという間に収集がつかない状態に陥ってしまった。
 赤の竜族って青の竜族と比べて個々が積極的っていうか、フレンドリーで明るい国民性(族性?)なのかしら!?

「はいは~い、静粛に! 姫さんが……トリィ様がびっくりしちまっただろう?」

 ダルフェさんが手をぱんぱんと打ってそう言うと、赤の竜族の皆さんはぴたっと口を閉じた。
 そして、申し訳なさそうな無数の眼が私に向けられて……うう、いたたまれない!

「……あ、あの、皆さん。初めまして、私っ……トリィと申しっ」

 ここはきちんとご挨拶をしなければと、ハクちゃんの腕を離そうとしたら。

「りこ」

 私の手に、ハクの大きな手が重なり。
 それを、止めた。
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