四竜帝の大陸【赤の大陸編】
 その後。
 ダルフェがカイユとりこに見せたい景色があると言い、帝都の外れへと足を向けた。
 そこは、正確に言うならば帝都の外れではなく端だった。
 赤の帝都の端は、崖だ。
 柵などはもちろん無い。
 落ちた場合、人間ならば死に。
 竜族ならば、多少の怪我をし。
 竜騎士ならば、無傷。
 その程度の、高さなのだが……。

「カイユ、姫さん。赤の帝都は数千年前に隆起した巨大な岩頸の上に……簡単に言えば、でっけー岩の上に作られた要塞みてぇな都なんだ」

 我の希望で抱っこ続行中のりこは、ダルフェの言葉を聞くと。

「大きな岩の上?」

 視線を下へと向け、その高さを確認し。

「ッ!?」

 身を、固くした。

「ひっ……たっ、高いっ……ハクちゃん、絶対にこれ以上前にいかないでね!?」
「誤って落ちても大事ないが? 試すか?」
「や、やめて~! 落ちてく途中が怖いの! 私、絶叫系は苦手なのよ!?」
「絶叫系?」
「と、とにかく崖から離れて!」
「……わかったのだ」

 どうやら、りこにとっては恐怖心をもつほどの高さのようだった。
 セイフォンから青の帝都へ向かう道中の、駕籠からの景色は楽しんでいたはずなのだが……あちらのほうが高度があるのだが……りこにとって、怖いのは高さでは無いのか? 
 りこの高さを怖がる基準は、なんなのだろう?

「良い景色ね……遠くにある海まで見えて、青の帝都からの眺めとは全く違う……。この高さなら、人間では自力で登ることも降りることも難しい……でも、武人や訓練された兵士ならば……。ダルフェ、赤の帝都の総面積は青の帝都の半分を少し越える程度でしょう? なぜ、造らなかったの? それとも造れなかったの?」

 ダルフェに寄り添うように立ち、風に眼を細めていたカイユが何を言いたいのか。

「カイユ?」

 何を造らなかったのかを問うたのか、我には察せられたがりこには分からぬようだった。

「造るのはいつでもできるしな……」
「なら、どうしてさっさと壁で囲ってしまわないの?」
「そこまでしちまうと、赤の大陸の人間達によけいな勘ぐりをさせるだけだ。まぁ、下に関所があるってだけでも、大なり小なり反感買ってるんだけどね」
「勘ぐり? …………そう。赤の大陸は、竜族が最も生き難い大陸なのかもしれないわね」
「そんなことはないさ。昔と比べれば、良い状況だぜ? 関所破りなんてのも、めったにないしな」

 短くなったカイユの髪に手を伸ばし、風に弄ばれて乱れた髪を手櫛で整えてやりながら言うダルフェの言葉に。

「関所?」

 りこが首を傾げた。
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