四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「あ、あっ……わた、わたっ……し」

 メリルーシェの支店でのバイロイトさんの言葉が、頭の中で弾ける。

 ---貴女の軽はずみな行動が彼を苦しめる……
 ---貴女に関わって<監視者>の怒りを買い、消される者達を出さない為に……

「わたっ……ご、ごめんなさいっ…ごめ、な……」 
「りこ? 誰もりこを怒ってなどおらぬぞ? あぁ、すまぬっ、先ほど我がっ……りこ、ごめんなさいなのだっ」

 ハクは私を腕に座らせるようにして抱きなおし、思い違いを訂正する余裕の無い私の背を撫でた。
 その手が私の強張った身体と心をゆっくりとほぐしてくれる……。

「りこ、りこよ。泣くな、泣かんでくれっ……ほら、見るが良い! ダルフェだけでなく、カイユもおるだろう? りこのもっとも気に入りのカイユだぞ? 両方とも我が連れて来たのだ。ここへの転移のさい、どちらにも傷ひとつ付けなかった。あれ等はりこの気に入りだからな。幼生も赤の城に居るのだぞ? まぁ、少々壊れてしまったが、死んでおらんので問題無いのだっ」

 ……え?
 ジリ君が赤の竜帝さんのお城に!?
 え、ちょ、ちょっと、今“少々壊れた”って言ったの!?

「ハクっ!?」

 聞き捨てなら無い事を耳にした驚きで、思わずハクちゃんの髪を両手でぎゅっと掴んでしまった私に、
 ダルフェさん口を尖らせてい拗ねたように言った。

「姫さん、この人はねぇ~、俺の時は生ごみ状態で青の大陸にぽいっとしたんだぜ? つまりねぇ、旦那は俺の時だけ手を抜いたわけ。餓鬼の頃からの付き合いだってのに、ひでぇよなぁ~。でも、おかげさまでジリギエは五体満足で無事だった。父親として、俺は旦那に感謝してるんだ」

 両手を肩のところで広げておどけたように言いながら歩き、ダルフェさんは私を抱くハクちゃんの前で足を止めた。

「……黙れダルフェ」
「だからぁ~、睨まないでくださいって。さり気にあんたをフォローしてやったんですから……あのねぇ、旦那。姫さんは俺達とは違う。目の前で腕を千切られたら“きゃぁああ~”ってなりますって。旦那が今すべきなのはなんなのか、その良いんだか悪いんだか微妙な頭でよ~っく考えて見てくださいよ?」

 ダルフェさんは羽織っていた赤い軍服……騎士服を右手に取り、カイユさんの足元に向かって無造作に投げた。
 ばさりと音を立て、それはアリシャリの上に落ち……その身体を、視線を覆い隠す。
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