好きになった人、愛した人。
プロローグ
道端でアルバイトの求人広告を持って突っ立っていると、そこに紅葉が1枚、紙の上に舞い落ちてきた。


あたしが手のひらでそれを払うと、曲線を描くようにくるくると回りながら、コンクリートの上に着地した。


あたしはオレンジ色の携帯電話を取り出して、広告に乗っている番号に電話をかける。


募集されているのはファミリーレストランの厨房。


本当はフロントスタッフの方がよかったけれど、もうわがままなんて言ってられなかった。


叔父さん叔母さんは無理してバイトを決めなくていいって言ってくれているけれど、そういうわけにもいかない。


大学に入って最初の夏休みだって、すべてパティシエ合宿に費やしてしまったし、そろそろ稼ぎ口を見つける必要があった。


せめて携帯代金だけでも、あわよくば、学費が出せるくらいの給料がほしい。

< 1 / 395 >

この作品をシェア

pagetop