好きになった人、愛した人。
出てけよ
病室で1時間ほど同じ体制でいたあたしは、腕をグルグルと回して


「ふぅ」

と、息を吐き出した。


モデルというのは大変だ。


ただ窓辺に立っているだけでも、随分体力を使った。


だから、ストレッチをしながら帰ってきたのだ。


いつものように鈴の音が響く玄関を開く、そして靴を脱いで上がったとき、廊下の途中にあるトイレのドアが開いた。


トイレから出てきた人物の久しぶりに見るその顔に、一瞬息を呑み、その場に立ち尽くす。


「太一……」


汚い無精ひげに、ボサボサで油っぽい髪。


何日も着替えていないのだろう、黒い汚れがついた服。
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