視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~

車はどんどんスピードを上げていく。
それでも、どうしても信号で止められたり前方の車に行く手を遮られてしまう。

そのもどかしさが、私の不安を煽る。

長田さんは舌打ちをした後、車内のボタンらしきものを押した。
その後すぐ、私達の乗る車からサイレンが鳴り響く。
前方の車は路肩に車体を寄せ、私達の乗る車は赤信号をも止まらず走らせて行った…。



大輔の家に近付いた頃、サイレンを止めて長田さんは私に言った。


「急く気持ちは分かる。だが、さっきみたいに停車する前にドアは開けてはいけないよ?」


「…はい。すみませんでした。」


「松原さんは、奥さんの精神状態の事もあるから、ご主人も自宅にいるはずだから。」


「…はい。…分かりました。」




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