forget-me-not
「一体どんな村なんだろう。楽しみ楽しみっ」


イオは荷物をまとめながらはしゃいでいる。


ウルドの方はというと、武器である大鎌くらいしか荷物がないので背負ってお仕舞い。
あとはイオが準備し終えるのを待っていた。


満ち足りた表情でどこか遠くの方を見ながら何か考えているようだった。








「ウルドー。準備完了しましたっ。出発しようか」



荷物を肩に担ぎ、キラキラとした笑顔を惜し気もなく振りまくイオの声に、ウルドは我に返った。



見ると、重そうな荷物を一人で持っている。




「荷物は俺持つよ」


それだけ言うとウルドはイオから荷物をそっと下ろし、自分の肩に担いだ。




「ありがとうウルド。優しいねっ」


イオの言葉に少し頬を赤らめるウルド。




優しいとかそんな言葉、今まで言われたことなかったウルドには、そういう時何と言葉を返せばいいのがわからない。


今まで自分の受けてきた言葉はひどいものばかりだった。

心ない人間は自分の姿を見ると皆、口を揃えてこう言った。


“恐い、その瞳でこっちを見るな”と。




しかしイオは違う。
自分を傷つけたりしない。


だから自分もイオを傷つけない。

そう心に決めたのはいつのことだったか…。




たぶんあの日。
忘れもしないあの日。









「ありがとう。
出発しよう」



ウルドはイオに声をかける。あの日の分の“ありがとう”を込めて。



「何だよー。いきなりありがとうなんて」



イオはウルドの突然のありがとうの意味がわからなかったが、いたずらっぽく笑っていた。






目指すは次の村ハノエラ。まだ始まったばかりのこの旅。



二人は静かに歩きだした。眩しい朝日に背中を押され、歩む足取りは軽かった。
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