forget-me-not
神獣はきっと自分の心を見透かしている。
自分が何なのか分からず苦しんでいることも恐らくお見通し。





「ちっ……」



無意識の内に出た舌打ちは神獣ではなく自分に向けられたもの。




分かれ道の先は物音ひとつしない迷宮。
道が狭いのと同時に、重苦しくなる程の神聖さに吐き気がする。





「――はぁ…はぁ……」



いつの間にか息が上がる。普段は町村の教会ですら入らない自分が、神殿など無謀な話だったのか…。






苦しい。


自分の中の何かがこの場所を拒んでいる。



鳥肌が立ち、身体が悪寒に震える。
気を緩めると自我を失ってしまいそうで、自分をしっかりと保つのに必死だった。




永遠を感じさせる程、だらだらと長い道…。

苦しみながら進む道のりは絶望的に感じられる。





「――はぁ…でも進まないと……。
イオとの約束―――守らなくちゃ…………」






こんな時、ふと頭に浮かぶイオとの約束。




「……君も俺みたいに苦しんでいるのか?」





その問は一人きりの通路に寂しく反響しただけで、誰も答えてくれはしない。






自嘲気味に笑うウルドは、前方に何かの気配を感じた。


いきなり現れた“何か”。最初の刺客がついに登場のようだ。





無意識に構えた大鎌はまるで意思を持っているかのように震えた。



血を欲している。
命を奪うことへの躊躇いなど消える。





自分の“影”の部分がちらり顔を出す…。





もう何もかも消してやる。
自分を阻む全てのものを。




紅い瞳はより一層、瞳孔を細める。




ウルドは前方の“刺客”に狙いを定め、魔の言葉を紡いだ。







『漆黒の闇に蝕まれしこの世界
心に巣食う闇は降り注ぐ鋭利な刄となりて……』



無慈悲な紅の瞳は決して揺らがない。

詠唱するウルドの周りには黒い魔方陣。ウルドを軸にゆっくりと螺旋状に回りながら黒い輝きを放つ。
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