「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」

〔宣戦布告〕

「あー疲れたー」

帰宅するなりリビングへと直行し、ダイブするようにしてソファーの上に全身を沈めた。

仰向けになって意味もなく天井を見詰めた。


今日はいつもの何倍も疲労を感じていた。身体というよりも心が。

言われのない悪口を面と向かって言われたり、浩平のことを宇留野さんに褒められたり、その宇留野さんが私のことを好きなどと、とんでもないことを向山さんが口走ったり。

いやいや、有り得ないでしょ。もし本当に好きだったら、あんな人を小馬鹿にしたような態度とらないでしょ。

他人の言葉に惑わされるな。全て忘れるんだ。頭の中をリセットするんだリセット。


「ただいま」

程なくして浩平も帰宅。

ソファーに寝転んだまま、おかえり、と返した。身体を動かすのがなんだか酷く億劫で。

浩平が仕事用の帆布トートバックを床に投げ捨てたらしい聞きなれた音が聞こえ、

「鞄をその辺に放置しないでっていつも……」

思わず小言が口を衝いて出たけど、言い終わる前に私を見下ろす浩平が視界に入った。目が合う。浩平がソファーの背もたれと肘掛に手を添えて身を屈めた。目の前に康平の顔。思わず口を半開きにしたまま見詰めた。


「杏奈?」

不思議そうに私の顔をまじまじと見ながら名を呼ばれ、益々身体が硬直する。そうして全身に痺れのような衝撃が走った後、緩やかに火照り始めるとっても素直なこの身体。

それは欲望の一歩手前――かもしれない。


「なに?」

浩平が急かすように問うから、

「別に」

思わず視線を逸らせば、ふんわりと私の唇に何かが触れる。すぐにキスされたと気付き身体の奥深くがざわついた。だけどすぐ、浩平が少しだけ身を引いて私との間に隙間を作り、

「さてと、夕飯どうする?」

言ってニッと屈託ない笑顔を見せた。


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