「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
「おまっ……何、ズルしてんだよ。早く入れよ」


「米山こそっ!」


負けじと言い返せば、米山がプッと吹き出した。目を細めた柔らかい笑顔を見ていたら、私の口元も自然に緩む。



きゅん――

胸の奥で何かが弾んだような音が鳴った。



何コレ? 何なの? この甘酸っぱい感じ……。


まるで私、十代の恋する乙女みたいじゃん。



「じゃあ、明日な」

そう言って歩き出した米山。けれど上半身はこちらを振り返ったままで。


米山が肘を折った右腕を軽く上げて見せたから、釣られるように私も胸元でバイバイをした。

そして、米山は今度こそ本当に背を向けた。



小さくなる背中が、数十メートル先の角を曲がって消えるまで、ずっと眺めていた。




ねぇ米山――


――大好きだよ。


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