16の月-過去に戻れたら‥【完結】


前か右か左かと辺りを見回す。

左の方に、真っ黒なロングヘアと茶色いタイトスカートが見えた。


高宮さんだ。


俺は走り駆け寄る。


「高宮さん!!」


と呼び止めた。


ピタリと足が止まった。



町のネオンの灯りが高宮さんの後ろ姿を
色とりどりに輝かせていた。


「…高宮さん‥だよね‥?」
俺は再び問いかける。


高宮さんは振り返った。

「…違います。」と言って。




正面から見た高宮さんは、やはり…

高宮さんだった‥。




「俺…俺の事、覚えてない‥?水池修…」
と言いかけた俺の言葉も聞かずに
クルリと背を向け、高宮さんは立ち去った。



「ちょ‥ちょっと…ちょっと待ってよ‥」

俺は再び追いかける…。



「人違いですから‥話しかけないで下さい。」

高宮さんは前を向いたまま、ツカツカと歩き出す。



「待ってってば‥」と高宮さんの肩を掴んだ。


高宮さんは、キッと俺を睨みつけると


「人違いです。貴方なんて知りませんから。」と言って
俺の手を振りほどいた。


そしてそのまま、何事もなかったようにタクシーを止め
乗り込んで行った…



どれだけ「違います。」と言われても
間違いなく、高宮さんだ。



一瞬、記憶でも失ったのかとも思ったけれど、
最後に俺を睨みつけた目は…


俺の事を覚えている証拠だった…。





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