淡い初恋
「私は、何も知らずに・・・。あの時は、本当に悔しくて、彼にも同じ苦しみを味わって欲しくて、彼に宗次郎さんを好きになったと言いました。でも、彼はもとからモテるからあまり効果が感じられなくて、正直自分が惨めになっただけでした。」と私は、話し終えた後、ユリさんを見ると彼女ももらい泣きをしているのに気づいた。彼女は、頬をつたった涙を手で拭うと「まだ、大丈夫ですよ。」と言ってきた。「え?」私は聞き返した。するとユリさんは「龍之介さんはずっと希さんのこと忘れられなくて、誰とも恋愛をしてないんです。だから、今度こそ彼を信じて、寄りを戻してください。」と応えた。だけど、彼女の笑顔はどこか無理しているようにも伺えた。

「ユリさん?」と彼女を呼ぶと「ごめん、私、用事があったこと思い出した。行かないと。」と言ってユリさんは立ち上がった。「あ、あの!」私は今にも逃げ出しそうな彼女の背中に向かって声を掛けると「ありがとう。」と言った。ゆっくりと彼女は振り返り、笑顔になると「幸せに。」と言って踵を返し、そのまま店を後にした。


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