オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
 
不用心だとかアホだとか、いろいろとツッコまれるのは分かっているけれど、なぜか訪ねてきた人が奈々だと思い込んでしまったあたしは、警戒心の欠片もなくドアを開け放ち、そう言いながら目の前の人に泣きつく。

と。

とたんに香る、バラの匂い。

もも、もしや……!?


「ごめんね、まことちゃん。メルでした」

「めめ、メルさん!? どうしたの!?」

「うふふ」


うふふ、って。

え、えー……。


それから少しの後、メルさんに抱きついたまま思考も体の動きも停止しているあたしに、彼女
はまた、うふふっと笑いかけると言った。

「上がらせてもらうわね」と。

状況が全く飲み込めないまま、編み上げのロングブーツを脱ぎ、部屋の中へと歩いていくメルさんの後ろを、ちょこちょこ追いかける。

そうして、たった今まであたしが体育座りをしていたところに美しく正座をすると、つっ立ったまま呆然とメルさんを見ているあたしを不思議そうに見上げ、しかしそれでも別に構わないと思ったのか、唐突に話しはじめた。


「愛菜から全て聞いたわ。あなたって子は、まったく……。何もされずに済んで、本当によかったわよ。こんの、バカちんがっ!」
 
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