オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
 
そうしてメルさんは「帰るわ」と立ち上がり、あたしはアパートの前まで彼女を送った。

いつから待っていたのか、はたまた、朝、メルさんをここに送ったときからずーっと待っていたのか、そこにはすでに野宮さんがいて、あたしに軽く会釈をすると、車の後部座席のドアを開けてメルさんを恭しくエスコートする。


「さっきの話、あたしは急がないけれど、まことちゃんが答えを出すのは急いだほうがよさそうよ。それだけは言っておくわね。自分の気持ちに正直に。いいこと?」

「はい」

「それでは、ごきげんよう」


野宮さんに窓を開けてもらうと、メルさんはそう言って、優雅に、妖艶に微笑む。

けれどすぐに何かを思い出したようで「あ、そうそう」と手をぱちんと叩くと、内緒話をするように、あたしにこう尋ねた。


「あのコーヒー、どこで手に入るのかしら」


おいおい、買って帰る気だよ、このセレブ……。

もう決まり事になってきたけれど、そのツッコミも心の中でだけにさせてもらって、あたしは笑いをこらえながら教えて差し上げる。

すると。


「野宮、スーパーとやらに行ってちょうだい」

「かしこまりました」


車は、夕方の街に消えていった。
 
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