不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】

…暴露

「どうぞお座りください」

医師に勧められ椅子に座る。大希さんは隣に座り、私の手を握った。

「予約はいつがいいですか?」

大希さんは怪訝そうに眉間にしわができ、

「予約?」

と医師に尋ねた。

私は大希さんの隣で身を固くして俯く。

「奥様は、妊娠されているのですが年齢も気になり、

体力的にも自信がないとのことで、中絶さ…」


大希さんは私の方を向き直って

「はぁ?!」

と声を大きくした。

「佐々木さん?」

医師は私の方に疑問を投げかけようとした。

「はあ…

ちょっと2人で話をしたいので一度席を外してもいいですか?」


大希さんは握った手を引いて診察室の外に行く。

表情はうかがい知れなかったが、動揺しているのは声で明らかだった。

そして、人けのない待合室の端に私を追い込んだ。

「どういうことだ?」

「…」

「妊娠しているのか?」

「…」

「あんなに欲しがっていたのに中絶って…」

瑞希に兄弟が欲しかったので、不妊治療を再開したかった私。

その私が中絶するなんておかしい…

昨夜私は、最終的に訳も分からない不安が勝って堕胎するしかないと思い込んだ。

そして今がある。

「…」

「何も言わなければそれでいいのか?」

「…」

「これ以上ここで詳しい話をする時間は俺にはない。

今日中絶の予約はしない。わかったか?戻るぞ」
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