不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】

…疑惑

しばらくして大希さんが首にタオルをかけて部屋に戻ってきた。

まだ、髪が濡れている。何気ない日常の一コマ。


私は座っているソファーから彼を見上げた。そしてその視線を受け止め、

ぎこちなく微笑む。

大希さんはタオルで髪をふきながらこちらに近づいてきて、静かに私の横に座った。

「なあ、ほのか」

そう言って、私の膝の上の掌を包み込むように自分の手を重ねる。

「はい」

「今日の昼の話の前に、別の事で気になることがあるんだが、

先にそっちの話をしてもいいか?」


大希さんが

『気になることを聞く』

ときは怖い。

いつも、何でそんなことを知っているのかと思うことを、ズバリ聞かれる時があるからだ。

私は手を離そうとしたが、重ねられた掌に囚われて逃がしてもらえなかった。

私は、何かを隠す様に身構える。

「この前の出張…

何かあったのか?」


私の身体がビクつく。

もちろんほんの少しの動きだが、ばれないわけがない。

大希さんの眉間にしわが寄って表情が歪む。

「何があった?」

はっきりとした低い声でもう一度聞き直してくる。

どうしようか?何もなかったと言っても彼はおそらく納得しない。


私はしばらく答えず、そしてあったことをとりあえず言おうと思った。
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