花言葉が紡ぐ恋~大人の恋愛編~
ハコベ~逢い引き~

桜とハコベが咲き誇る山の中、私は着物の裾を翻しながら息をはずませ目的の場所に向かって駈けていた。

立ち並ぶ桜並木から横道に入ってさらに細い、一見獣道に見える道を進む。

「ハァ…ハァ……蔵之助(くらのすけ)さん!」

道が開けた先、朽ち果てた小さな神社の傍で背中を向けて立っている彼に走ってきた勢いのまま抱きつけば、驚いた風もなくしっかりその腕に抱きしめられた。

「お香、いつも言ってるだろう?山道なんだから走らないでゆっくり歩いてこいって」

「だって少しでも早く会いたいんだもの」

鍛えられた身体に、他の男より低い声を持つ5つ歳上の彼の首に腕を回して1度きつく抱きついた後離れて満面の笑顔を浮かべた私に、彼は仕方ないなぁ、と目尻を下げて私の頭をなでた。
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